「積立金が足りない」の前に。国が令和6年に示した引き上げ方の2つの数字

皆さま、こんにちは!株式会社KYOEIです。

管理組合の理事会で、最も重い空気になる議題があります。修繕積立金の値上げです。

工事の見積りが出てきて、積立金の残高と照らし合わせたら足りない。値上げを提案すれば反対が出る。かといって工事を先送りすれば建物は傷む。この板挟みで動けなくなっている組合は、決して少なくありません。

ここで知っておいていただきたいことがあります。国は令和6年6月、積立金の「引き上げ方」について新しい考え方を示しました。金額そのものではありません。上げ方のルールです。値上げの議論に入る前にこの2つの数字を押さえておくと、話がずいぶん進めやすくなります。

そもそも、なぜ途中で足りなくなるのか

積立金の集め方には、大きく2つの方式があります。

均等積立方式は、必要な総額を計画期間で割り、毎月同じ額を積み立てていく方法です。最初から負担は重めですが、途中で上げる必要がありません。

もう1つが段階増額積立方式です。当初の月額を低く設定し、5年ごとなどの区切りで段階的に上げていく方法です。新築マンションの多くがこちらを採用しています。

問題はここから起きます。

分譲時の月額が低いほど、購入者にとっては買いやすく見えるため、当初の設定が実態より低く抑えられている例があります。しかし総額は変わりません。初期を低くした分は、後から取り返すしかないからです。

そして数年後、値上げの議案が理事会にかかります。当初の2倍、3倍という数字を見て、住民から反対が出る。そのまま据え置かれ、また数年後に同じ議論を繰り返す。積立金が足りない組合の多くが、この経路をたどっています。

国が令和6年6月に示した、2つの数字

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を平成23年4月に作り、令和6年6月に改定しました。この改定の主眼が、段階増額方式の引き上げ方です。

示されたのは次の考え方です。

まず、均等積立方式で計算した場合の月額を求めます。これを基準額とします。そのうえで、段階増額方式を採る場合は次の範囲に収めることとされました。

計画の初期額は、基準額の0.6倍以上
計画の最終額は、基準額の1.1倍以内

意味を読み解きます。

初期額の下限は、入口を安く見せすぎることへの歯止めです。基準額の6割を下回るような設定は、後の負担が重くなりすぎるため避けるべきだ、ということになります。

最終額の上限は、後半にしわ寄せするなという歯止めです。最終的に基準額の1.1倍を超えるのなら、そもそも初期の設定が低すぎたという理屈になります。

国は段階増額方式そのものを否定してはいません。ただし、幅を持たせるにも限度がある。そう示したということです。

お手元の長期修繕計画を開いて、当初の月額と、計画の最後のほうの月額を見比べてみてください。3倍以上に跳ね上がっているようなら、この考え方から外れている可能性があります。一度、確認する価値があります。

いまの積立金は、水準として適正か

同じガイドラインには、専有面積あたりの積立金の目安も示されています。地上20階未満のマンションについて、延床面積の規模別に整理されたものです。

  • 延床5,000㎡未満:月あたり235円から430円(平均335円)
  • 延床5,000㎡以上10,000㎡未満:170円から320円(平均252円)
  • 延床10,000㎡以上20,000㎡未満:200円から330円(平均271円)
  • 延床20,000㎡以上:190円から325円(平均255円)
  • 地上20階以上:240円から410円(平均338円)

いずれも専有面積1㎡あたり、1か月の金額です。機械式駐車場がある場合は、別途加算が必要とされています。

計算してみます。専有面積70㎡の住戸で、延床8,000㎡のマンション。平均値の252円を掛けると、月17,640円が目安になります。

いまの積立金がこれを大きく下回っているなら、いずれどこかで帳尻を合わせることになります。早く気づくほど、1回の引き上げ幅は小さく済みます。

工事費の側も見ておく

積立金は出口とセットで考える必要があります。実際の大規模修繕にいくらかかるのかという話です。

国土交通省が令和3年度に実施した実態調査では、200社818件の工事事例を集計しています。戸あたりの工事金額は、100万円から125万円の範囲が最も多いという結果でした。

内訳も出ています。総工事費のうち建築系の工事が60.3%、足場などの仮設工事が22.8%、諸経費が10.3%。建築系の中では外壁関係が49.4%、防水関係が32.0%を占めていました。

注目していただきたいのは仮設工事の22.8%です。足場は建物を直す工事ではありません。それでも総額の4分の1近くを占めます。

ここに判断材料が1つあります。外壁と屋上防水を別々の年に分けて発注すれば、足場を2回組むことになりますが、同じ時期にまとめてしまえば足場は1回で済みます。積立金に余裕がない組合ほど、工事の組み合わせ方で差が出ます。

なお、この数値は全国の集計です。建物の規模、階数、立地、劣化の程度で変わります。目安として使い、自分の建物の見積りは実際に取ってください。

堺市の建物で、もう1つ考えておきたいこと

ここまでは全国共通の話です。堺市で建物を見ている立場から、地域の事情を補足します。

堺市の西側は大阪湾に面しています。海からの風には塩分が含まれ、鉄部の錆や塗膜の劣化を早めます。手すり、階段、外部に露出した金物。このあたりは、内陸の同じ築年数の建物より進行が速くなります。

積立金の計画で言えば、鉄部塗装の頻度が上がる可能性があるということです。長期修繕計画が全国標準のひな形のまま作られている場合、海沿いという条件が織り込まれていないことがあります。

計画書の鉄部の項目が、何年間隔で入っているか。そこを見てください。

足りないと分かったときに、できること

積立金が不足していると分かった場合、選択肢は主に4つです。

1つ目は月額の引き上げ。最も基本的な方法で、早く着手するほど1回の幅は小さくて済みます。

2つ目は一時金の徴収です。工事の直前にまとめて集める方法ですが、住民の負担感が大きく、合意形成は簡単ではありません。

3つ目は借入。住宅金融支援機構などの融資制度がありますが、返済は積立金から行うため、結局は将来の負担として残ります。

4つ目は工事内容の見直しです。すべてを一度にやらず、優先順位をつけて分割します。ただし前述のとおり、足場を何度も組めば総額は膨らみます。分けるなら、足場が不要な工事を切り分けるのが基本です。

どれを選ぶにしても、出発点は同じです。正確な工事費の把握。金額が分からないまま値上げ幅だけを議論しても、根拠のない数字の押し付け合いにしかなりません。

なお、令和4年度に始まったマンション管理計画認定制度では、認定の基準の1つに「計画期間全体の修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと」が含まれています。積立金の水準は、いまや外部から評価される項目にもなっています。

金額の議論の前に、建物を見てください

積立金が足りるか足りないかは、必要な工事費が決まって初めて判断できます。その工事費は、建物の状態を見なければ出せません。

順序としては、建物診断で現状を把握し、必要な工事とその時期を洗い出し、そのうえで積立金の計画と突き合わせる。この順で進めるのが確実です。

株式会社KYOEIは堺市を拠点に、マンションやビルの大規模修繕、外壁改修、防水工事を手がけています。地元にある会社として、建物を見たうえで、必要な工事と概算をご説明します。

長期修繕計画が実態に合っているか分からない。値上げの議案を出す前に、根拠となる数字がほしい。そうした段階でもかまいません。まずは建物を見せてください。

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